今回、私たちはかつての北朝鮮の友好国・旧東欧諸国が記録した秘密文書をもとに、その謎に迫った。とりわけ同じ分断国家として北朝鮮に関心を示していた旧東ドイツの取材を通じて、北朝鮮の権力"世襲"の舞台裏に迫った。と、NHKは説明していたが、日本人にとって特に切迫した問題である拉致事件への言及が生温かったからだ。拉致被害者を政府認定の16人だけに限定し、400人以上の特定失踪者は完全にスルーされた。しかも北朝鮮の背後にいる支那の存在を完全に無視していた。
そうした中、日本人拉致事件や大韓航空機爆破事件などが引き起こされた背景も改めて明らかになる。
3月31日の気になるニュース、「栗山元駐米大使ら参与に/陛下の相談役、宮内庁」にも言及しなければならない。
栗山元駐米大使ら参与に/陛下の相談役、宮内庁栗山氏は4月2日づけでポストした記事で紹介した支那に信頼されている「言論NPO」のサイトでこんなことを言っている。
皇室の重要事項について天皇陛下の相談役となる宮内庁の参与に、元駐米大使の栗山尚一(くりやま・たかかず)氏(74)と東大名誉教授の三谷太一郎(みたに・たいちろう)氏(69)の2人が4月1日付で就任することが決まった。現参与の中島敏次郎氏(80)と大西勝也氏(77)は3月31日付で退任する。
新参与の栗山氏は1954年に外務省入省。外務事務次官、外務省顧問、駐米大使などを歴任した。三谷氏は日本近代史が専門で、2005年に報告書をまとめた日韓両国による「日韓歴史共同研究委員会」の日本側座長などを務めた。
ともに最高裁判事だった中島氏と大西氏はともに2000年4月から参与を務めた。
(共同 3月31日)
「中国にどう向かい合うのか」注目すべきはこの部分だ。栗山氏はこれまでも多くの識者に批判されてきように、まさに外務省の体質を具現した人物だということが良く分かる。歴史認識が危ういどころか、歴史知識すら持ち合わせていないのだ。
その際のナショナリズムをどこに向けるかというと、その原点は日本なのです。その前の19世紀のヨーロッパの植民地主義に抵抗したということも歴史の一部ですが、いわゆる抗日戦争を戦い、共産党にとってはより直接的な日本との戦争というものを戦って、日本に勝ったということが、中国のナショナリズムの原点です。それはある程度、理解しなくてはならない。
一般的な処方箋はないのですが、長い目で見れば、中国がある程度変わらなければ、この問題は解決しません。中国は、日本的、あるいはアメリカ的、欧米的な民主主義国には当分ならないと思いますが、もう少し、全体主義的な色彩が薄い社会になる可能性は、長期的にはあると思います。そうなれば、この問題はある程度、対応可能な状況にはなると思います。短期的には、問題を本質的に解決することはできないでしょう。個々の問題をそれなりにその都度処理していくということしかない。それが全面対立にならないように、ある程度問題を封じ込めていく必要があります。
やはり、村山談話や小泉談話に出ている政府の認識というものが、どういう歴史的な背景に立ってそのような認識になっているのかということを、これからの21世紀の日本人がきちんと勉強しなければならないという気がしてなりません。
共産党にとってはより直接的な日本との戦争というものを戦って、日本に勝ったということが、中国のナショナリズムの原点です。それはある程度、理解しなくてはならない。こんな人物を「陛下の相談役」に就任させた宮内庁は、外務省の遠隔官庁に成り下がり、昭和天皇の支那訪問という愚劣極まりない失策を繰り返そうというのだろうか?
栗山氏は3月13日に私の敬愛する外交評論家、屋山太郎氏に批判された矢先である。
歴史確定は政治家の仕事にあらず 乗ってはならぬ中国の靖国追及
≪東条ヒトラーを同列扱い≫ 三月七日に中国の李肇星外相は小泉首相が靖国参拝をやめないことにいらだって、ヒトラーを引き合いに、傲慢無礼な記者会見を行った。
政治家も外務官僚も実に手軽に「歴史認識」の共通項を探ろうとするが、そのようなことは民主主義国では不可能だと知るべきだ。栗山尚一元駐米大使は雑誌『外交フォーラム』の一、二月号に「和解−日本外交の課題」と題して書いているが、副題に「反省を行動で示す努力を」とある。この論旨を一言でいえば、中国の気の済むまで日本は謝り続けろということにほかならない。
その謝罪のあり方の“見本”として氏は、ドイツの周辺国への謝り方を紹介しているが、外交官が日本とドイツを比べること自体、常識が狂っている。ヒトラーのやった犯罪はユダヤ人種の抹殺のため市井に暮らすユダヤ人を連れ出し、何百万人もガス室に送って虐殺したのである。この行為と軍官僚として戦時体制の内閣を引き継いだ東条英機首相の戦争行為とは全く質が異なる。
ニュルンベルク裁判を模して行われた東京裁判では「人道に対する罪」に該当しなかった。次官までやった外交官がヒトラーと東条首相を同列に扱うとは信じ難い話だ。その栗山氏ですら、譲歩に譲歩を重ねて中国の歴史認識に近づいたとしても、中国は満足しないだろうという。
≪現在と将来語るのが本分≫ どうにもならなくなった二国間関係は「条約を結ぶ」という行為でリセットされるのが国際ルールだ。日本は一九五二年のサンフランシスコ平和条約で連合国四十九カ国との関係をリセットし、フィリピンやビルマ(現ミャンマー)に対しては賠償を含めた条約を結んでリセットした。韓国、中国とは、一九六五年の日韓基本条約、一九七八年の日中平和友好条約でそれぞれリセットした。
これに比べてドイツはヒトラーの政権が崩壊し、米英仏ソの占領が開始された結果、周辺国のどことも条約は結べなかった。だからこそユダヤ人への個人補償を余儀なくされたのである。ドイツ人はユダヤ人虐殺の罪を全部ヒトラーにかぶせているが、ホロコーストにかかわったドイツ人は何万人にも及ぶ。日本人は「悪い奴は東条英機だ」と責任回避して逃げるような卑怯(ひきょう)なことはしなかった。
二〇〇五年十一月、フランスはかつてのアルジェリアの植民地政策とその責任をめぐって議会で大論争となった。その際シラク大統領は「フランスには官製の歴史はない。歴史を決めるのは議会ではなく歴史家の仕事である」との声明を出して議論は打ち切られた。
いわゆるA級戦犯が靖国神社に合祀(ごうし)された一九七八年十月のあとも大平正芳、鈴木善幸両首相は靖国神社参拝を続けたが、大平首相は合祀問題について、「A級戦犯あるいは大東亜戦争についての審判は歴史が致すであろうと私は考えております」と答えている。そもそも政治家は、現在と将来を語るのが本分であって、過去の歴史解釈を確定するのが任務ではない。
≪フィンランド化を恐れる≫ 一九九八年訪日した中国の江沢民国家主席は宮中で「歴史認識」について“説教”をたれたが、翌九九年北京を訪問したカンボジア首相から中国と百五十万人を虐殺したポル・ポト派の関係を聞かれ、「われわれは過去のことより将来のことを語るべきだ」と叫んだという。
中国人は神道や神社については全く理解していないと東洋史の泰斗、岡田英弘・東京外語大学名誉教授は断言する。にもかかわらず、中国がしつこく靖国問題を追及するのは、マスコミを含め日本の指導層が割れるからだ。
山崎拓氏らは「靖国問題が次の総裁選の争点になる」と全く見識のないことを言う。唐家●国務委員(副首相級=外交担当)は「小泉首相にはもう期待していない」と二月八日、野田毅日中協会会長に語ったという。これは言外に次の総理には中国の気に入る人物を選べといっているに等しい。
国際政治用語に「フィンランド化」という言葉がある。冷戦中、ソ連に取り囲まれたフィンランドは、独自の外交政策をとればソ連に押しつぶされかねず、ソ連の気に入る外交を余儀なくされた。現在の日本はさながら中国に圧迫されたフィンランドだ。
日本人は首脳会談をすること自体が外交だと思っているが、会談をやること自体に何の意味もない。日本が政・経にわたって手を引けば、圧倒的に困るのは中国の側だと認識させるべきだ。(産経新聞【正論】政治評論家・屋山太郎) ●=王へんに旋