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2005年11月25日

没後35周年の憂国忌

mishuma_p.gif最初の追悼集会は事件直後の12月11日に池袋駅そばの豊島公会堂で行われた。凍てつくような寒さの中、会場前から長い列ができていた。受験勉強を放り出してその列に加わっていた私は、たまたま一緒に並んでいた早稲田の理工の学生と、何日か後に多磨霊園に参った記憶がある。35年の歳月は余りに長く色々な出来事があったが、振り返ると何一つ当時考えていたことを実現できていない自分の無力さに愕然とする。死のちょうど5年後、学生だった私は「三田文学」で「三島由紀夫・死後五年と戦後三十年」という特集を企画し、西尾幹二氏と桶谷秀昭氏の対談と前衛舞踏家、笠井叡氏の三島論を掲載した。

翌年、大学を中退した私は、どこかのJazz喫茶でたまたま目にしたジャズ雑誌で、間章(あいだあきら)という先鋭的なジャズ批評家の論文に、笠井叡氏の三島論が引用されていることを知り、一人で悦に入った記憶がある。間章氏も好きな批評家だったが、夭逝してしまった。
その三島特集で、私は当時彗星のように登場した新進気鋭の批評家、西尾幹二氏と日本精神史のロマン主義の系譜を深く探求していた若き桶谷秀昭氏の対談を実現させ、サブカル領域からも笠井叡氏の論文も掲載し、満足していたのだが、じつは実現できなかったこともある。
それは、小林秀雄氏と倉橋由美子氏の三島論掲載だった。当時、子育てに入った倉橋氏は断筆していたし、小林秀雄氏はもちろん雲の上の存在だった。ただ、今思い出すと、執筆依頼のために鎌倉を訪れ、小林秀雄氏と会話ができたことが、学生時代の貴重な思い出である。
「本居宣長で『新潮』に迷惑をかけているし、今は書けないんだよ」
そう言った小林秀雄氏の口調、表情など、微に入り細に入り憶えている。ピンクの長袖のシャツを着て小林氏は小町通を歩いていた。当時、氏は「新潮」に「本居宣長」を断続的に連載中だった。

厳かな神式の慰霊祭で始まった今年の憂国忌は、私にとって初めてのものになった。発起人の末席に名を汚すようになったからだ。笙の音が響き渡る壇上に身を置いていたのだが、この35年間の自分の至らなさがかえって身に沁みてしまった。三島由紀夫を書くという目標の一つさえ叶えていない。
細江英公氏の「薔薇刑」解説も楽しめたが、シンポジウムが俄然盛り上がった。西尾氏の三島由紀夫の危機意識は宣長の危機意識と通低していたという指摘は、国境を意識できない天才の悲劇であり宿痾であるということか。だが、それは、井尻千男氏の「日本文化を非関税障壁とする米国の対日年次要求書は市場原理主義の圧力であるが、それを超越するメカニズムとしての天皇」という定義に繋がるものだ。入江隆則氏の「喪失していた肉体と精神を取り戻すために死を選んだが、そんな自分の不幸を日本のために使った」という指摘にも重なり合う。

春の雪.jpg上映中の「春の雪」を大部前に試写で観たが、小説の冒頭と結末の重要なシーンが脚本にないことが残念だった。それは、冒頭の日露戦争の写真を清顕が眺めるシーンと、月修寺を失意の清顕が訪ねたときに、門跡と清顕が話していると障子の向こうから聞こえる聡子の泣き声がカットされていたことだ。プロデューサーの藤井浩明氏にお会いしたとき文句を言ったのだが、「優れた文学作品は原作通りにやると映画が絶対に原作に負けてしまう」と言葉を返された。「僕はずうっとそうやってきた」という藤井氏の言葉は、「金閣寺」原作の「炎上」、「憂国」を手がけてきただけにそれだけ重く、反論できなかったが、あの二つのシーンを観たかったのは事実だ。

26日の夜、テレ朝の「スマステ」が三島由紀夫を特集していたのは驚いたが、死後35年目の憂国忌が盛大に行われたことからも、時代が大きく動いている証拠である。

※ この記事は11月25日づけでポストしました。
写真 (C)2005「春の雪」製作委員会


posted by Kohyu Nishimura at 23:59 | Comment(11) | TrackBack(15)
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この記事へのコメント
当時大学生だった私は体中が震える衝撃でこのニュースを受け止め、暫らく何も手につかない日々が続きました。
氏の従来からの発言、特に早稲田大学での全共闘との討論等から、いつか、...と半ば予測されうる出来事でしたが...。
あれから35年....昨日の何気なくテレビをつけたスマステーションで、「三島由紀夫」をやってたのには、私も実際驚きました。そしてその時のゲストの中井貴一さんが、「国を思うこと」の必要性をきちんと述べられてたけど、無教養な芸能人ではなくてよかった、と思いました。
Posted by おばさん at 2005年11月27日 12:49
しかし現実は北朝鮮に日本は乗っ取られるのは確定的になりました。
北の手下である小泉・安倍を嬉々として最高権力者にしているんですからもう決定的です。
日本人は滅びるべくして滅んだといえましょう。
三島が生きていたらいかにこの事態を思うのでしょうか。
Posted by at 2005年11月27日 22:47
まず、アメリカには愚か、シナ・朝鮮に
好き放題やられている日本に愕然とするでしょうね。
そして、天皇制廃止を目論む首相に対して悲憤慷慨でしょうな。
そもそも今の人たちは憂国者でも三島文学に触れたことのない人が多いのではないでしょうか。
西村氏はたびたび三島をこのプログでとりあげますが、殆どコメントがないことからもそれが窺えます。
ですが、これからは三島が本格的に復活し、
その文学を通じて真に日本を思う人々が増えるかもしれません。

小林秀雄と話をしたことがある西村氏が羨ましいものです。
Posted by とおり at 2005年11月27日 23:57
テレ朝の番組なので左によったおかしな紹介をするかと
穿った見方をしていましたが、そんなこともなくなかなか良い作り方をしていましたね。朝日は新聞は処置なしですが、
テレ朝はちょこちょこ保守的な内容を取り扱ったりするので
意外とバカにできません。
中井さんが国際社会では自国に誇りを持っていない人は
通用しない、としっかりとした意見を述べられていて、
非常に好感が持てました。
また、三島さんが現代日本の社会の荒廃をすでに数十年前に
言い当てていたと三輪昭宏さんが言っていたのが印象的
でした。

去年あたりから三島文学をたくさん読んでいます。
皆ももっと読んでくれるといいのに。ここには素晴らしい
日本語が詰まっているから。
Posted by とおりすがりのひと at 2005年11月28日 13:11
超 すご
小林秀雄と話したなんてすごい経験。でも、それが理解できる人は若い世代に多くない。小林秀雄はおろか、三島由紀夫のことも知らない人が多い。
国語の教科書に載っていないし、若い世代の知的レベルもあるが、学校教育のレベルダウンと三島をなるべく隠そうとする時代が続いている。

>おばさん
討論は東大全共闘です。スマステは僕も見ました。
Posted by 感想 at 2005年11月28日 13:13
感想さん
そうでしたね、東大の全共闘との討論が有名でしたね、書いた後で、あっ、と気が付いたのですけど、...。でも早稲田でも学生と討論されてて、その記憶が鮮明だったので....。申し訳ありません、35年、ほとんどが普通のおばさんしてたもので。
小林秀雄さんは、雲の上のひと、あのような方はもう出ないのでしょうね。
Posted by おばさん at 2005年11月28日 20:16
日本、最大の教養人といわれてましたからね。
しかしあの時代は小林秀雄以外にも優秀な人が
たくさんいました。

今、そういう人が出ないのはなんでしょうね。
時代の流れだったり、教育が悪いというのもあるんでしょう。

当時の人は漢文、古文を徹底的に音読させられたといいます。名を残した人には古典を暗証した方が多い。
シナには腹が立つことはありますが、漢文だけは
日本人にとって一等重要に思えます。

一冊目、二冊目ぐらいはよく内容が摑めないでしょうが、段々、理解ができるようになっていくはずです。
読めない人は読んでないから分からないのです。
生徒の読解力が低いからといって、漱石や鴎外を
読ますべきではないという人もいるぐらいですからね。
前に、齋藤孝氏に噛み付いていましたが。
難しい文章は簡単な文章をいくら積み上げても読めるようにはならないものなのにねえ。
国が早急にやらねばならぬことは、教育改革でしょうな。国語教育がしっかりしていないと独学ができやしません。
これは困ったものです。

三島は死んでから封印されてきましたが、
愈愈以って、三島の胎動を感じられる日が近づいてきました。

Posted by とおり at 2005年11月28日 22:07
>「優れた文学作品は原作通りにやると映画が絶対に原作に負けてしまう」と言葉を返された。

間違ってますね。
優れた文学作品をネタに選んだ時点で、クリエイターとして負けているのです。
で「付け足し」をやって自爆する、と。

文学作品を元ネタにした映画で名作とされるものは表現に工夫をしても、歪めたりはしょったりしてませんてば。
Posted by ペパロニ at 2005年11月29日 00:09
三島の後半と石原の考え方は、それぞれ共通点があるのではないでしょうか。楯の会と石原軍団表現の仕方は、違ってもにたようなものではでしょうか。戦が武士階級だけだったのが鉄砲の出現で人差し指で距離を置いての戦いになり極端な言い方をすれば健康な者であればだれでも戦に参加できるようになりました。精神的に確固とした日本民族意識の向上と言行一致をはかるには、ある年齢に足したら国防訓練の実施で解決するのでは。簡単な熟語は、富国強兵、誤解を受けないために近代的な民主的名富国強兵策の確立を議論すればどうでしょう。
Posted by 日本の国益を考える者です at 2005年12月01日 20:02
西村様、記事とは関係ありませんが、画面左のblogのリンクがずいぶん増えましたが、中にはほとんど更新されていないものや、内容的に「?」なものも含まれてるようで、頻繁に更新され且つ素晴らしい内容のblogへ、より多くの訪問を促すためにも、一度整理されてはどうしょうか?もちろんいきなり削除というのでなく、より役に立つサイトを厳選してこれまで通りトップページに表示し、その他は「その他のリンクはここをクリック」みたいにまとめてみるとか。ご検討願います。
Posted by skuus at 2005年12月01日 21:48
皇族の問題はかなり難しい問題だとは思いますが、頑張ってみんなが納得行くようないい精度が出来たらいいなと思っています^^
Posted by conpa at 2005年12月31日 11:48
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